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AIエージェント時代に求められる「橋渡し役」。技術とビジネスをどう繋ぐのか
2026.05.15 | 江頭 貴史
第1章 なぜ、AIの橋渡し役が必要なのか
── 昨今、AIやAIエージェントに関する情報が増えています。
世の中に出ている情報の多くは、目的ではなく「手段」に寄っています。
例えば「新しいサービスが出た」「新機能が追加された」「どのモデルが優れている」といった情報は次々と流れてきますが、それが自分の業務や課題の解決にどう結びつくのかまで丁寧に説明されているケースは多くありません。
その結果、「これを知らないと乗り遅れるのではないか」「どのAIを選ぶのが正解なのか」「AIが進化すると仕事がなくなるのか」と不安ばかりが先立ちます。
しかし、本来はChatGPT、Gemini、Claudeといった名前から入るのではなく、自分が何をしたいのか、その目的に合うものを選べばいいだけの話です。
そもそも重要なのは 「目的を達成できるかどうか」 です。
例えば、機械が苦手な方が車を買う時、ボンネットを開けてエンジンの構造を細部まで確かめないですよね。一定の安心感があり、自分の用途に合っているとジャッジできれば十分です。
ところが、AIのように仕組みが見えづらい技術を目の前にすると、途端に「何だか怖い」という反応が起きやすくなります。
企業のAI導入でよく聞くのは「分からないから使えない」という判断です。得体が知れないから導入の可否を決められない。結果として検討が後ろ倒しになり、しまいにはAI自体をシャットアウトしてしまう。
社内でGoogle検索は許容されているのに、生成AIは一律で認められないといった線引きが生まれることもあります。
私は、この 「分からなさ」を放置しておくこと自体が問題 だと感じています。
── AIを巡り、仕事の現場ではどのような反応がありますか。
AIに限らず、新しい技術では、技術者とビジネス側とで重視するポイントが異なることが少なくありません。
技術者は精度や再現性、制御のしやすさを気にしますし、ビジネス側は導入によるインパクトやリスク、ステークホルダーに説明できるのかを見極めます。
見ているものが違うために、同じAIを前にしても議論が噛み合わないことが多々あると想像しています。
世の中では「AIに情報を入れると学習に使われて外部に漏れる」といった断片的な情報や、「このAIがいいらしい」といった話題も後を絶ちません。
失敗したくない、判断を誤りたくないという思いが強いほど、かえって情報を絞り込めなくなって、何を信じていいのか途方に暮れることもあります。
私は、こんな状況の中で 橋渡し役 でありたいんです。
皆さんの「何だかよく分からない」をそのままにしてしまうと、不安に振り回され続け、冷静な意思決定ができなくなるからです。
ブラックボックスに見えがちなAIの仕組みを伝えながら、「今は何に注目すべきか」を整理して伝える。そして、自分の用途に合っているかをジャッジできるようになる。
それが今後、ますます求められる立ち回りだと考えています。
第2章 何を「橋渡し」しているのか
── ジェネラティブエージェンツはどのような橋渡しをしていますか。
ジェネラティブエージェンツは、AIエージェントを社会実装することを目指しています。
お客様や社会がAIエージェントを理解できていない状態では、「こういう可能性があります」「こういう使い方ができます」と利点を発信しても、なかなか届きません。
そこで、私たちが扱っている技術や価値を正しく受け取っていただくために 「橋渡し」 が不可欠です。
私たちの講座や研修は、開発者に向けた専門性が高い内容が中心ですが、それだけでは入口としてハードルが高くなりやすい。そのため「はじめてのClaude Code」のように、気軽に参加できる無料のオンラインイベントも開催しています。
最近では、開発者だけでなくマネジメント層も対象にした「AIエージェント導入リーダー養成講座」も研修のラインナップに加えています。
現場の方だけがAIに詳しくなっても、経営者や意思決定者がAIエージェントの概要や導入効果を理解しないかぎり、現場のAI活用は進まないからです。
このように、ジェネラティブエージェンツには初めての方からエキスパート、経営者まで、幅広い層に向けたコンテンツが充実しています。
── ジェネラティブエージェンツの講座に申し込む開発者の方々には、どのようなお悩みがありますか。
「何となくAIを使っているが、仕組みが分からない」「仕組みが分かったとして、その先をどう作り込めばいいのか」「ブラックボックス化させずに、どう調整・改善していけばいいのか迷っている」といったお声ですね。
背景として、AIエージェントが担える領域が急速に広がっていることが挙げられます。
少し前までは、AIを使って個々の業務を効率化できれば良かった。
現在(2026年4月)では、AIエージェントが事業戦略の検討を支援したり、自律的に複数の業務を担ったりするケースもあります。
もともとITの世界では、人間が手作業で行っていたことをコンピューターに置き換えることで効率化を進めてきました。
つまり、従来のシステム化は、人間の業務プロセスを前提にした最適化だったとも言えます。
ところが、AIエージェントではそのプロセス自体を見直す場面が出てきています。
私たちは技術そのものだけでなく、仕事の進め方がどう変わるのかも含めて、開発者やマネジメント層に伝えています。現場で直面するギャップを早い段階で埋めたいんです。
── AIエージェントに関する理解が深まると、どのような変化が期待できるでしょうか。
開発者の方々はAIの概要やできることを把握すると、自分たちの開発業務をどう効率化できるかを考え始めます。
しかも、単なる作業効率の改善にとどまらず、対象となるドメインを見据えながら、開発チームのあり方を変えようと動きますね。
さらに、AIエージェントによってソフトウェア開発のビジネスモデルが変わる可能性があります。
これまで企業は、ソフトウェア開発を外部に委託したり、既製のシステムを導入したりしてきましたが、今後は自社に合ったものを内製するようになるかもしれません。
一方、全ての企業がすぐに動けるわけではないことも事実です。
新しい技術に取り組む必要性は感じながらも、自社の業務にどれほど効果があるのか、実現可能なのか、誰がAIエージェントの成果を評価・管理するのかが見えず、一歩を踏み出せないケースも多いでしょう。
例えば、2010年代の第3次AIブームでは、多くの企業が中期経営計画やIRでAI活用を掲げていましたが、現場では「AIを導入すること」が目的化しがちでした。
私自身、前職でAIサービスを販売していた頃、お客様から「これはAIを使っているんですよね」と確認されることがありました。
業務がどう変わるかよりも、「AIであること」が導入条件になっていたんです。その結果、売る側も「AI搭載」を前面に押し出し、導入したのに現場は何も変わらないケースが多かったように思います。
AIエージェントでは同じことを繰り返さず、技術者にも導入を検討する側にも、その概要と効果を伝えています。
第3章 難しい技術を「分かる」に変える工夫
── 講座や研修などで開発者に説明する際、「削る・伝える」を設計していらっしゃいます。
そうですね。
ジェネラティブエージェンツの研修では、伝えたいことをそのまま書き出すと情報量が膨らんで全体像が見えにくくなるため、「この場で持ち帰っていただきたいことは何か」を決め、それ以外を削っています。
── より深く理解していただくためにどのような工夫をしていますか。
用語や仕組みをそのまま覚えてもらうだけではなく、「なぜそうなるのか」を想像できる状態 まで持っていくようにしています。
AIエージェントの説明で言葉だけを丸暗記しても、現場では使いこなせません。自分の業務や経験に引き寄せて理解できて、はじめて腹落ちしたと言えます。
例えば「コンテキストロット(Context Rot)」という、大規模言語モデル(LLM)と長い対話をして会話履歴が増えすぎてモデルが正確な記憶を維持できなくなり、性能が低下する現象があります。
モデルの能力をギリギリまで使うと、情報の前半や真ん中が抜け落ちやすいと論文で言われていますが、私は「人間と一緒ですね」と説明します。
入社したばかりの若手に一度に大量の業務を説明したところで、全部は覚えられないし、混乱してミスが増えてしまう。
だから「AIには仕事を細かく切り出して伝えましょう」「こうするとAIが上手く動きます」と伝えます。
その上で、AIエージェントをどんな目的で使うといいのかを皆さんの知識レベルに合わせてお伝えしつつ、目的や課題に合わせて言葉も取捨選択しています。もちろん、その段階で必要のない応用的な話や余談は持ち込まないようにしています。
── 皆さんが学ぶ際につまずきやすいポイントはありますか。
AIエージェントの導入方法でしょうか。
言葉や使い方をそれなりに把握しても、現場でどんな場面で調整するのか、どんな場面で人間がアクションするのかと勘を働かせづらい。
書籍や教材を読むだけでは、現場でAIエージェントをフル活用している姿が想像しづらいですよね。
自社の現場の課題に対してAIエージェントをどう実装・適用していくのか。それを誰が監視して、動いた結果をどう評価して改善していくのかまで考えなければなりません。
── 受講者の視点に対する解像度が高いですね。
ありがとうございます。
以前、私は全文検索エンジンの開発を担当し、ニューラルネットワークという人間の脳の神経回路の仕組みを模倣したAIや、機械学習の基盤となる計算モデルにも携わってきました。
前職でも、AIチャットボットのカスタマーサクセスとして、AIに馴染みのないお客様の導入支援をしてきたんですよね。
お客様のお悩みに共感しながら解決するまで寄り添ってきたこともあり、ジェネラティブエージェンツの研修でも 「どう説明すれば相手が次の一歩を踏み出せるか」 を強く意識しています。
第4章 開発者たちのビフォー・アフター
── 講座を受けた後、開発者の皆さんにはどのような変化がありますか。
講座の前半では「内容についていけるだろうか」と不安を口にする方もいらっしゃいます。
しかし、学びを進めるうちに「AIエージェントとはこういうものなのか」「これまでの付き合い方を変えなければならない」「プロダクトの方針そのものを見直す必要がある」と認識が変わり、実務に持ち帰って行動を変える方が多いですね。
例えば、当初は「既存の仕組みにAIエージェントを組み込めば活用できるはずだ」と考えていた方が、実際にはそれだけでは不十分で、設計や前提条件そのものを見直し始めるケースがあります。
AIは後付けの機能として足せばいいものではなく、提供価値をどう設計するかという段階から組み込むべきもの だと、捉え方が変わっていく。
AIに何を任せ、人間がどこを担うのかを新規企画の初期段階から考えるようになったというお声もあります。
他にも、最初に数名が受講した後、人事やマネジメント側が「これは開発者にとって重要な内容だ」と判断し、続けて別の開発者も受講する流れに繋がることがあります。
数ある講座の中からジェネラティブエージェンツを選んでいただき、学ぶ価値があると感じてリピートしてくださるのは非常に有り難いことです。
さらに印象的だったのは、COBOLを長年担当してきたベテランの方々です。新しい技術を学ぶために初心者向けコースだけでなく、応用的な実践コースにも進んでくださいました。
最新のシステム開発の現場から距離があり、異なる専門領域で活躍してきた方からも、最新AIの詳細やその活用方法を学べたとご好評いただいています。
── さまざまな方のインサイトに対する共感性の高さも、橋渡し役として欠かせないと感じました。どのようにAIエージェントを世の中に広めたいとお考えですか。
情報発信の頻度を高めていきます。
現時点では、講座や研修で扱う内容は技術的に難しいものが中心です。
民主化に先駆けて、技術に携わっていない方でもひと目で要点をつかめる動画や記事、ブログ、講演などを増やしていきたいです。
先述のとおり、AIエージェントをカジュアルに学べるオンラインイベントも定期的に開催し、ジェネラティブエージェンツから「謎の技術集団」というイメージを払拭したいですね。
AIエージェントの専門会社というだけで「難しそうだ」「自分にはまだ早い」と感じて、問い合わせを躊躇してしまう方もいらっしゃるからです。
距離を縮めて 「まず触れてみよう」 と思っていただける機会を増やしたいんです。
そのためにも、現場の皆さん一人一人のペインを察して、コンテンツの形式や難易度、届け方を設計していきます。それが私たちが担っていきたい役割です。
(取材・執筆・編集:佐野 桃木)
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